すのうろぐ

日々のこと、趣味のこと

あなた、ちょっと失礼な人ね。

最近、散歩をしている。

太りに太ったこの体。

蓄えたる脂肪。いや、ラード

 

仕事をしていない今こそ、時間と体力の限りこそぎ落とさんと意気込んでいる。

 

そんな中。

 

とぼとぼと散歩をたしなんでいた。

散歩しながら宇宙の起源なんてのんきに考えていたんだけど

 

突如大きなクラクション。

 

大きな音に弱い私。驚いた顔で音のするほうを向く。

 

そこには一台の車が止まっていて、中からはすてきな笑顔のお兄さん。

 

 

誰・・・?

 

 

人見知りな私。極力知らない人とはかかわりたくない。

それだというのに、その笑顔の素敵なお兄さんは手招きをしている。

 

 

 

怪しい

 

とは思いつつも、むげに無視して目でもつけられたら厄介だ。

適度な距離を取りつつ、恐る恐る近づいていく。

これぞ牛歩戦術

丑年たる今年にふさわしい堂々たる戦術。

 

 

近づくにつれはっきりしてくるお兄さんの顔。

中々近づかない私にしびれを切らしたのかお兄さんが窓から顔を出しにこやかに声をかける。

 

「おう!久しぶり!何やってんだ!」

 

 

 

 

久しぶり・・・?

 

 

もしかして会ったことあるのか?

いつ?どこで?久しぶり?ということは1年とかそんな前か?

人の顔など覚えるのも苦手というに、そんな前の話をされても困る。

いや、そもそもその言葉かけじたいが高価なツボをかわせる常套手段なのではないか?

 

 

だが

 

 

それを相手に言ってしまったら逆上もあり得る。

もし本当に会っていたら?

もしその時は仲良くしていた人だとしたら?

もしかしたら親戚?学生時代の友人?

 

だれなのか思い出せていない焦りと色々な考えが錯綜しながら

冷静かつ動じていないふりをしつつ

こちらもあたかも知り合いのように会話を続けてみる

 

 

 

 

 

 

「ぉ・・・おぉ~。お、おぉ~。今ぁ・・・ささ・・・散歩中だよぉ~・・・」

 

 

 

 

 

 

いかん。動揺した。

 

 

 

 

「ぶふっ!散歩中って!お前ぇ~久しぶりだなぁ!声聞きづれぇからもっと寄れよ~!」

 

 

 

 

もしかして拉致が目的か?この男。

 

 

全力で逃げたほうが良いのか?

否、こうなったら拉致を敢行しようとした場合、力の限り暴れるしかない。

 

 

88㎏近い体重を陸に挙げた獲れたての魚のごとく暴れまわるのみぞ。

 

意を決して車に近づく。

 

呼吸は荒くなってくるが、それを悟られないよう平静を装う。

 

体はすでに温まっている。いつでも暴れられる。

 

 

一歩、一歩近づく。

 

あと一歩で私、そして男の間合いの中に入る手前、衝撃の言葉が男から飛び出した。

 

 

 

 

「ん?お前・・・誰だ・・・?」

 

 

 

 

 

いや、お前が誰だよ。

 

 

 

 

 

 

 

「あぁ~わりぃ!知り合いと思った!すまんすまん!遠目から似てると思ったんだけどさ!ん?なんか丸い感じがしていたから変だな~とは思ったんだよな!ごめんな!」

 

 

 

 

 

 

なんと、ただの人違いだったのだ。

安心した。

知り合いじゃないというのも安心したし、何かしらの行動を起こすやべー奴でもないのがすごく安心した。

 

人違いなら仕方がない。うん。

 

 

「あぁ~わりぃな!邪魔して!ごめん!!頑張ってな!」

 

 

にこやかな笑顔を向けるお兄さん。

まだ警戒を解くわけにはいかないが、すくなくとも悪い人ではなさそうだ。

 

 

「いやいや、私も一瞬、知り合いかな~と思っていたので(笑)」

 

 

そう言葉を交わして、「じゃあ」とお互い軽い会釈をする。

そうしてお兄さんはさっそうと車を発進させて街の中へと溶けていった。

こういうこともあるもんだね。

 

とりあえず悪い人でなくて本当に良かった。うん。

 

 

そんな面白出来事。お兄さんの朗らかな笑顔と明朗快活をおもわせる元気な声を思い出す。

 

 

 

 

 

 

 

 

ちょっとまて。あいつさっき私のことを「丸い感じ」って言わなかったか?